汽車は闇を抜けて走るので「もしかして、あたい、鉄郎になれるんじゃないの⁈」と興奮しながら寝台特急に乗る当日を迎えた。
こんな姉に弟がLINEで銀河鉄道999ごっこにつきあってくれた。ちなみに私はハーロックのほうが好きだ。
夕方まで仕事があり、帰宅後、入浴、夕食を済ませる。
鍵やiPhoneなど、最後に詰め込むものを仕込んで荷造りを完了させる。
夜だもん。大丈夫だもん。歯磨きも済ませたもん。すっぴんぴんで出発。
寒いと思っていろいろ着込んだら暑くなったので、水も自販機にスマホをかざして購入。キャッシュレス旅の練習の成果出てる!
岡山で30分くらい待ち時間があった。
そのときになって「もしやサンライズ瀬戸とサンライズ出雲の連結が見られるんじゃない?」とひらめき、ネットを調べる。
どうやら見られそうだ。
まず瀬戸がホームにやってきた。
他にも連結を見る人がどやどや集まる。反対側のホームにもカメラやスマホを構える人がいた。
瀬戸のおけつが開き、車両をつなぐじゃばらフードが準備される。
そしてお待ちかねの出雲到着。
出雲のあたまも開き、同じくじゃばらフードが準備される。
作業する人の他に車掌さんが「そのままそのまま、あと7m」など誘導し、無事に連結作業完了。
連結したらすぐに出発とアナウンスがあったので、走って自分の乗る車両に飛び乗る。いや、気をつけて早足くらいで大人しく乗ったけどさ。
私は下段の部屋で、行き合わせた人が「メガネがない!見えん!」と言っていたので、一緒に案内図を見て進んだ。
といっても狭いところだから迷いようがなかった。
無事に自分の部屋に入る。
せま!
と思ったが、カプセルホテルより天井は高く、窓もある。揺れる中、部屋を探検する。
コンセントがひとつ。明かりは2種類。ハンガーがひとつ。コップがひとつ。毛布1枚。枕ひとつ。寝間着1着。
全部の明かりを消して、窓のブラインドを開ける。外は暗く何も見えない。街灯やおうちの明かりは見えるけど、かなり暗い中だった。全然、銀河鉄道999じゃなかった。
私はくたびれていたので、早々に寝間着に着替えた。明日も早いしトーハクではにわまみれになるんだ。体力気力温存のため、寝よう。
窓の近くは外の冷気がじんわり沁みてくる感じがし、私は毛布の上に着てきたモッズコートもかけて寝ることにした。
が、ノック音。1度スルーしたがもう1度ノックされたので覗いてみたら車掌さんだった。さっき連結のときに誘導していた車掌さんで、改札のためだった。私は慌てて切符を探し、車掌さんに手渡した。寝乱れていたし、髪もぼさぼさだったはずなのに車掌さんはにこやかに対応してくれた。
どきどきしたせいか、眠気が急に覚めてしまった。私はまた室内灯をつけた。
いろんなボタンがある中で「NHK FM」のボタンがあった。その下には「サービスは終了している」というシールが貼ってあった。
明かりを消し、ブラインドを開け、よく見えない外を眺める。
眠いけど眠れない。ちょっと困ったが、しばらくして横になることにした。
結局、2時台と4時台に目が覚めた。当然だが、途中、停車した。名古屋でも目が覚めてしまった。
列車の振動はリズミカルなようで、そうでもない。ごとんごとんの中に、ちょっと車両が引っ張られるような感覚がある。それに慣れなくてうとうとしていても目が覚めたり、眠りがぐんと浅くなったりした。
そんな中、私はぼんやり考えていた。
あのラジオを聞いていた人はどんな思いで寝台特急に乗っていたんだろう。
まだ新幹線がそんなに自由に乗れるものではない頃に、旅する人だったのか。あるいは、進学や就職のため上京する人が、緊張と不安で眠れない夜を過ごすために聞いたのか。
それ以上の想像力がなく、でもちょっと切ない気持ちで寝返りを打った。
あるいは、銀河鉄道999で鉄郎とメーテルはどうやって寝ていたのか。
チケットを予約してから、のびのび座席のことを詳しく知った。座席、と言ってもいわゆる列車の座席ではなく、半個室のようなドミトリーのようなところで、一応しっかり横になることはできるスペースだった。
鉄郎やメーテルがベッドのようなものやのびのび座席のような場所で横になっている姿を見たことがなかった。普通の座席に座って、マントにくるまって寝ているのは見たような気がするけど。
ああいう作品にこういうリアルをぶつけるのも無粋だとは思うが、「横になれないのはつらいんじゃないか。睡眠がしっかり取れないんじゃないか」と思った。
ようやく身体が慣れ、深く眠れるようになった頃、車内放送が鳴った。
あと20分で横浜に到着することと、東京到着のアナウンスだった。
ブラインドを上げると「夜明け前の薄明かり」というよりはどんより曇っていつ夜が明けるのか判別しづらい感じだった。
私はブラインドを閉め、着替えをした。寝不足でぼんやりした頭と始終揺れる車内での着替えはいつもより時間がかかった。
横浜につくと、自分の目の前にホームがあった。私が乗った4号車は1階だった。こんなに低いところにいたんだ。という珍しい視点からホームを見上げた。人が多い。
ちなみに部屋には自分が数字を設定できる押しボタン式の鍵がある。トイレやシャワーなどを使うときは必ず施錠するようにというアナウンスもあった。
私は疲れていたし、設定するのも面倒だったので1歩も外にでなかった。夜中に車内探検してもうるさいだけだしね。
朝7時過ぎ。サンライズ瀬戸は無事に東京に到着した。
なぜ出雲ではなく瀬戸にしたかというと、「私は瀬戸内のコじゃからな」という思いがあった。
下車すると、珍しいのかサンライズを写真に撮る人が何人かいた。
車両の表示が「東京」から「回送」に変わり、車庫に入るアナウンスがあった。
そこまで見終わり、私は寝不足のまま東京ダンジョンを進むためにとりあえずは気合いを入れてそこから去った。
ついうっかり寝台列車の予約が取れた / 寝台特急サンライズ瀬戸 2024 (1)
鉄郎にはなれなかった / 寝台特急サンライズ瀬戸 2024 (2)