すごーく前の旅先でのお話をひとつ。
今よりももっと旅慣れていなかった頃、ひとりで奈良に行った。秋も深まった趣のある時期で、東大寺周辺の有名どころを巡り、疲れた私は一休みしようとカフェに入った。古民家カフェで雰囲気もよく、お客さんもたくさんいた。
「相席でもいいですか」と店員さんに言われ、承諾すると先に席に着いていたおぢさまと向かい合って座ることになった。人見知りで緊張が走るが、仕方ない。歩きまくってくたびれているんだ。もう新しいお店を探したくない。私は愛想良くおすましすることにした。
おぢさまも「奈良は初めてですか」など、軽く話しかけてくれたのでそれにぽそぽそと答えていた。するとおぢさまが怪しいことを言い始めた。
「霊って信じますか?」
私に緊張が走った。警戒した。除霊と称してなにを言い出してくるのか。不安がらせてなにをふっかけてくるかわからないじゃないか。
そんな私をよそにおぢさまは続ける。奈良や京都のような古いところには霊がたくさんいるんだって。そして私はその頃、やたらと陰陽師だの鬼だの異形の文化だのの本を読みまくっていた。
「あなたにも霊がついています」
ぎゃっ!きた!
「蛇です」
ぎゃっ!
でも!でも!除霊はお断りしますよ。きっとわけあって私についていると思うし、今のところ悪いことされていないし。なにかあったらおばあちゃんに相談しよう。うちの祖母はちょっと不思議な感覚のある人だ。もしかしたら親鸞様にお祈りしてあげる、と言ってくれるかもしれない。
など、ぐるぐる様々なことが駆け巡る。
「除霊しましょうか」
キターーーーーーー!!!
断ろうとしたら、おぢさまは言葉を続けた。
「蛇の除霊の仕方を知ってますか?」
知らない、と答えるとインドかどこかでは中指と親指で指を鳴らす、あの動作で霊を払うのだと言った。そして私の肩のそばで数回指を鳴らした。
「これで除霊しました」とおぢさまは言い、ほどなくして席を立った。
除霊が終わったが、私は肩が軽くなるわけでもなく、疲れが余計に出た。その頃にはティータイムの時間も過ぎ、お客さんも少なくなったので相席になることはなかった。
今のはなんだったんだ?なんだったんだ?
という思いだけがぐるぐるして、しばらく席を立てなかった。
おしまい
■本日の写真
ひろしま美術館周辺での紅葉。
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